活動概要北勢サテライト
伊勢湾蜃気楼シチズンサイエンス(市民科学)の企画を通じた市民の科学力の醸成
年間を通して
代表者/立花義裕・飯島慈裕
市町とのプロジェクト
活動の概要
伊勢湾は江戸時代から蜃気楼観光の名所として知られており、心打たれる美しい「幻影」を見せてくれる。広重の浮世絵(東海道四日市)にも描かれおり四日市博物館で見ることができる。嘆かわしいことに三重県民の多くはそれを知らない。本事業は伊勢湾蜃気楼を通じ市民参加型のシチズンサイエンスの企画を発展させることを目的とする。富山県が蜃気楼を売りに観光活性化に成功していることは有名であり、富山のような観光活性化による地域経済への貢献や町おこしは当然であるが、本計画は,「二匹目のドジョウ」狙いでは無い。それに留まらず、伊勢湾蜃気楼で地域と大学が一体となった市民参加型のシチズンサイエンス(市民科学)を通じて、市民の科学力の向上、気象・海洋・地球環境への興味を促すことも目的の一つとする。三重県南部は複数のビッグネーム観光地を有する。しかしそれら観光客は中勢や北勢を素通りしてしまう現状、如何にして彼らに中勢や北勢に寄ってもらうかが三重県観光の課題の一つである。
近未来では下記を目標としたい。市民が蜃気楼の写真をスマホで取り、それをSNSで発信し,心打たれる美しい「幻影」を日本中へ発信する。リアルタイムでの情報提供により、「ボクも見た」「わたしも見た」と連鎖的につながるであろう。また、どんなときに蜃気楼ができるのか?それを市民が実感することで、気象現象全般や海洋学への興味を高める。気象現象や海洋現象、そして蜃気楼の原理である物理を楽しむことで、自然災害に「楽しく備える」力をつける。また、市民が日常的に海を見ることを通じて地球環境を楽しく学ぶきっかけとなる。
活動の成果
伊勢湾蜃気楼の存在を地元市民に知ってもらうことを主目的とし、手始めに,サイエンスカフェ「見よう!知ろう!伊勢湾蜃気楼」を四日市市ばんこの里会館で実施した。概要は以下の通り。
元・四日市博物館館の堀越光信氏による、伊勢湾蜃気楼の歴史・地元研究者の観測の紹介。蜃気楼研究の日本の第一人者である小樽市総合博物館の大鐘卓哉氏による講演。大鐘氏は伊勢湾や北海道、そして全国の蜃気楼発生場所とその観測、さらに工芸品からみる蜃気楼の文化を紹介した。さらに大鐘氏は、北海道小樽沖の蜃気楼「高島おばけ」は、松浦武四郎が1846(弘化3)年に小樽沖で見たことを著書『西蝦夷日誌』などに書き残していることを紹介した。大鐘氏はさらに北海道と三重県との蜃気楼を通じた縁について以下を言及した。北海道という地名の名付け親でもある松浦武四郎は松阪市の出身であり、当時の江戸時代は伊勢湾に面した四日市が蜃気楼の名所として有名であったこと、そして松浦武四郎が蜃気楼に関する見識があったことが後世の我々に伝え残されている要因であったとの見解を示した。気象庁気象研究所の荒木健太郎氏(三重大学生物資源リサーチフェロー,三重大学で博士号を取得)は、コロナの影響でオンラインでの講演であったが、蜃気楼観測のシチズンサイエンスの可能性について講演した。また三重テレビ放送の気象予報コーナーでおなじみの多森成子氏が司会進行をおこなった。参加者は総勢70名近くに及び、高校生から熟年層、そして、富山県や千葉県からの参加者も見られ幅広い層の参加者があった。シンポジウムは報道からの取材も受け、地元のニュース番組や中日新聞等でも報道され、伊勢湾蜃気楼の存在が県民に対してPRされた。その後三重テレビ放送には市民からの蜃気楼画像が投稿され、テレビ番組などで紹介された。アンケートの結果「たいへん面白かった」と回答した方が7割近くに達していた。また、立花が出演した三重テレビの情報番組で伊勢湾蜃気楼を取り上げ発信し、番組中のそのコーナーが番組YouTubeで閲覧できる(https://youtu.be/O9OSD7C7Jig)。これら活動から、市民に伊勢湾蜃気楼の存在をしってもらうという、本プロジェクトの最初の一歩が達成された。
蜃気楼は大気光学現象であり、海面近傍の大気の温度と上空の大気の温度差による、光の速度の違いによる光の屈折現象である。これには海面水温と気温との相互に影響を及ぼす「大気海洋相互作用」が重要となるため、気象学と海洋学の知識お及び中学高校程度の基礎的物理学の理解が重要となる。また伊勢湾北部は木曽三川からに淡水が流入することから、伊勢湾の水温には河川の流量変化に関する知見も重要となり、理学と工学双方にまたがる多方面の研究分野が関連する。上記サイエンスカフェにおいても立花は上記を強調し講演した。
ライブカメラや市民の協力(シチズンサイエンス)により得られた大量の写真情報(いつ、どこで、どんな(例:上位蜃気楼か下位蜃気楼か等))をもとに、そのときの大気と海洋の温度構造を知ることができる。カメラで撮影された画像から蜃気楼発生を自動判別する仕掛け(例:あらかじめ蜃気楼写真を機械学習させておき、 SNSで発信された画像を自動的に判別させる)を模索する活動に着手した。これら活動は工学系の三重大学教員らとの連携も視野に入る。
これら成果を市民にフィードバックすることで、市民の地球環境意識の向上、科学力や気象力や海洋への興味の向上、防災意識の向上、四日市公害の負の遺産の払拭、さらに、観光を通じた地域活性化につながる。江戸時代同様にお伊勢参りのついでに四日市に寄って蜃気楼を見ることが三重県観光のモデル周遊コースとして旅行雑誌に紹介されるようになれば大成功となろう。「気象ビジネス」にも発展する可能性もあろう。例えば、幻影的な蜃気楼をスマホで手軽に撮影しSNSでつながれば、蜃気楼発生が待ち遠しくなる。すると、天気予報や気象情報、海水温情報をこれまでよりも入念にチェックするようになる。楽しむために気象・海洋・河川に関する情報を自分から求めるようになる。そうするといつの間にか気象に関する防災情報を上手く活用することができるようになって、自分自身の身を守ることや地球環境問題への意識の向上にも繋がる。地球環境問題解決のために、ステークホルダーである市民(社会各層)との協働が不可欠であるが、多くの地球環境関連のプロジェクトでは市民の参画に難儀しているのが現状である。本「伊勢湾蜃気楼プロジェクト」は、三重県だからこそできる好例となろう。以上を総合すると、地域のまちづくり、産業振興、観光、環境、歴史・文化、科学技術、教育等幅広い部門への貢献が可能となろう。 従って、分野横断的・広域・教育・地域や地域の文化に大きく貢献する活動である。